「地方自治」参考文献・サイト (最新の更新日:2006年4月18日)
1.教科書
地方自治は,教科書から勉強するよりも,さまざまな事例から勉強する方が面白いだろう。
その意味で,以下の3.初学者向けによさそうな著書の著書の中で興味をもてそうなものから読んでいくことをお薦めする。
とはいえ,教科書は,初学者がこれから取り組もうとする学問領域の輪郭を把握するうえでやはり必要であろう。
最初から通読するよりも,むしろ辞書がわりに使い,興味のあるところから読めばよいだろう。
なお,2000年4月にいわゆる分権改革があったので,それ以前の文献を読む場合は注意が必要。以下の教科書は今回の改革による制度変更を踏まえている。
(a)今川晃編『市民のための地方自治入門』(実務教育出版,2002年)2000円+税
(b)新藤宗幸=阿部斉『概説 日本の地方自治〔第2版〕』(東京大学出版会,2006年)2400円+税
(c)岡本全勝『新 地方自治入門』(時事通信社,2003年)2000円+税
〜総務省(旧自治省)の官僚の書いたもの。
2.辞書
(a)『新 自治用語辞典』(ぎょうせい,2000年)4000円+税
(b)阿部=今村=寄本編『地方自治の現代用語』(学陽書房,2000年)2800円+税
〜制度の解説として手堅いのは前者。図書館等で利用してほしい。
3.初学者向けによさそうな著書
(a)樺嶋秀吉『知事の仕事』(朝日新聞社,2001年)1260円
〜ジャーナリストによる著作。知事のリーダーシップに焦点を当てた本だが,公共事業,第3セクター,原子力発電所,住民投票,情報公開など,地方自治の諸課題もわかりやすく解説されており,この分野の入門書としても最適。田中(長野県),石原(東京都),北川(前三重県),片山(鳥取県)などの異色派・改革派知事が登場する。
(b)北村喜宣編『分権条例を創ろう!』(ぎょうせい,2004年)2476円+税
〜「初心者向け」というわけではないが,比較的わかりやすく書かれている。「条例」を通じて最近の地方自治の課題に触れることができ,その意味でもお薦め。
(c)田村明『まちづくりの実践』(岩波書店,1999年)660円+税
〜各地の村おこし,まちづくりの「実践」を紹介しており,元気が出る本。ほかに,同じ著者による,『まちづくりと景観』(岩波書店,2005年),『まちづくりの発想』(岩波書店,1987年)などもお薦め。
なお,京都市内のまちづくりの事例については,(財)京都市景観・まちづくりセンター発行のニューズ・レターの記事が参考になる。
また,京都市都市計画局都市づくり推進課の「歩いて暮らせるまちづくり構想 〜まちなかをモデルとして〜」(第1〜7章)の事例も面白い。
(d)今井一『住民投票』(岩波新書,2000年)660円+税
〜フリーのジャーナリストによる著作で各地の事例に詳しい。ただし,完全に運動側の視点に立って書かれている。なお,この本が書かれた頃は,住民投票といえば原発・基地・産廃処分場をめぐるものが大半を占めていたが,現在では市町村合併をめぐるものが大半を占めている。なお,住民投票の最近の事例については,後掲の上田著を参照。
(e)河北新報報道部『虚像累々』(日本評論社,1998年)1800円+税
〜各地のムダな公共事業の事例を多数収録している。ひょっとして皆さんの地元の自治体も載っているかも。もっとも,最近は,各自治体もカネがなくなってきたこと,ムダな公共事業をめぐる批判が沸き起こってきたこと,総務省(旧自治省)もかつてのように地総債(地域総合整備事業債)の大盤振る舞いをしなくなったことなどにより,ここに出ているような事例はだいぶ少なくなっている。なお,ムダな「箱もの」建設の温床であった地総債は,原則として廃止されることになった(『ガバナンス』2002年1月号,126頁)。
(f)松下圭一『自治体は変わるか』(岩波新書,1999年)700円+税
〜60年代以後の地方自治論をリードしてきた政治学者による講演録。7章の「回想の武蔵野市計画」から読んだ方がわかりやすいと思う。
(g)渋川智明『福祉NPO』(岩波新書,2001年)
〜最近のNPO事情についてイメージを得るためにちょうどよい本。
(h)西尾勝『行政の活動』(有斐閣,2000年)1500円+税
〜行政学の教科書であるが,自治体行政の諸活動を理解するうえでの好著。
(i)寄本勝美編『公共を支える民』(コモンズ,2000年)2200円+税
〜市川も分担執筆している。公共が「官」の独占物ではなくなりつつあり,「民」も積極的に公共を支える時代になりつつあるというのが本書のメッセージ。
4.市町村合併
(a)合併推進派の見解〜前者は研究者の,後者は合併を推進する総務省の官僚の見解
・森田朗「市町村合併の課題とこれからの地方自治」『ジュリスト』1203号(2001年6月15日)
・高島茂樹「平成の市町村大合併の理念と展望」『地方自治』647号(2001年10月)
〜総務省の見解は,総務省ホームページ「合併相談コーナー」も参照
(b)合併消極派・批判派の見解
・加茂利男『地方自治・未来への選択』(自治体研究社,2002年)952円+税
・加茂利男「『平成市町村合併』の推進過程」『都市問題』94巻2号(2003年2月)
・小原隆治編『これでいいのか平成の大合併』第1章(コモンズ,2003年)1700円+税
・合併の「対象」とされた町村側の言い分
〜地方制度調査会のホームページより,第27次地方制度調査会を探し,地方6団体提出資料の中から全国町村会と全国町村議会議長会のものを読んでほしい。
(c)各地の事例
・小原隆治編『これでいいのか平成の大合併』(コモンズ,2003年)1700円+税
・自治・分権ジャーナリストの会編『この国のかたちが変わる』(日本評論社,2002年)2000円+税
・久岡学ほか『田舎の町村を消せ!――市町村合併に抗うムラの論理』(南方新社,2002年)1800円+税
(d)政府の審議会の答申とそれに基づく立法の解説(総務官僚による)
・杉本達治ほか「第27次地方制度調査会『今後の地方自治制度のあり方に関する答申』について(上)(中)(下)」『地方自治』674-676号(2004年1−3月)
・杉本達治ほか「合併関連三法について(上)(中)(下)」『地方自治』680-682号(2004年7−9月)
5.地方財政について理解するために
(a)内閣府編『経済財政白書(平成13年版)』財務省印刷局発行
〜181頁以降で地方財政について語られているが,比較的わかりやすく書かれている。もちろん,ここで語られているのは内閣府の見解なので,その点に留意して読んでほしい。
(b)和田八束ほか編『現代の地方財政(新版)』(有斐閣,1999年)2800円+税
〜これは,経済学の知識がなくても読めそうな地方財政の教科書。これも,最初から通読するというよりも,辞書がわりに読みやすいところから読んでほしい。
(c)岡本全勝『地方財政改革論議』(ぎょうせい,2002年)2286円+税
〜地方財政が現在ほど議論になっている時期はない。かつては,この問題に関心を寄せるのは,自治省と地方六団体と地方自治研究者に限られていたが,現在では,実に多様な人々(地方財政について知識も理解もない人々を含む)がこの問題を議論するようになってきている。本書は,こうした議論(特に地方交付税批判)に対する総務官僚(旧自治官僚)の反論。本書の議論を受け入れるかどうかはともかくとして,図表が豊富で,また,とりあえず制度の解説は丁寧なので,参考になるかもしれない。
(d)第27回地方制度調査会 第32回専門小委員会(2003年10月17日)配布資料
〜最新の詳細な資料と図表については,これを参照してほしい。もちろん,総務省の「解説」つきの資料ではあるが…。以下の総務省のホームページにも,地方財政に関する詳しい資料が掲載されている。『地方財政白書』(総務省編)ビジュアル版も,総務省のホームページで閲覧可能。
(e)香山充弘「三位一体の改革と交付税」『自治研究』(第80巻第2号,2004年)
〜2003年6月のいわゆる「骨太の方針 第3弾」をきっかけに,3ヵ年計画でいわゆる三位一体改革が動きだしたが,その初年度にあたる平成16年度予算における改革内容については,総務事務次官によるこの論文を参照。
6.旧カリ「地方自治1」の参考文献
〜旧カリキュラムでは1年生むけの「地方自治1」という半期ものの講義を担当していました。新カリキュラムでは,この講義は高学年配当になりますので,しばらくお休みです。これはかつての参考文献表の一部。絶版や品切が多いので図書館で読んでほしい。ただし☆は安いのでもし興味があれば購入してもよいだろう。
(a)二元的代表民主制
〜これについては,地方自治の教科書であればどの本にも出ているはず。特に読んでほしいのは,
・神原勝「自治体代表機構の活性化と政党」92-96頁(篠原一編『ライブリー・ポリティクス』総合労働研究所,1985年)
(b)各国の地方自治制度
・土岐寛ほか編『比較行政制度論』(法律文化社,2000年)2700円+税
・竹下譲ほか『世界の地方自治制度〔新版〕』(イマジン出版,2002年)3000円+税
(c)地方議会と地方議員
〜以下の文献は,いずれも少々古いので読む際に多少の注意が必要。
・西尾勝=岩崎忠夫編『地方政治と議会』(ぎょうせい,1993年)
・若田恭二『現代日本の政治風土』(ミネルヴァ書房,1981年)
・黒田展之編『現代日本の地方政治家』(法律文化社,1984年)
・雑誌『ソシオロジ』(第30巻第1号,1985年5月)
・村松岐夫=伊藤光利『地方議員の研究』(日本経済新聞社,1986年)
・春日雅司『地域社会と地方政治の社会学』(晃洋書房,1996年)
・東京市政調査会研究部『都市議員の研究』((財)東京市政調査会,1996年)
(d)住民投票
〜「売れ線」のせいか,多くの本が出版されているが,住民投票運動のルポルタージュや外国の制度の紹介などが多く,「直接民主主義と間接民主主義の関係」という政治学的課題に取り組んだものは,★のほかは意外と少ない。
・上田道明『自治を問う住民投票』(自治体研究社,2003年)★
〜政治学者による著作だが,初学者にもきわめてわかりやすく書かれている。最近の事例の叙述,各地の事例の類型化,直接民主主義と間接民主主義の関係についての政治学的考察などがなされている好著。
・大山礼子「住民投票と間接民主制」(新藤宗幸編『住民投票』ぎょうせい,1999年)★
・杉田敦「デモクラシーの重層化へ」(雑誌『世界』1996年10月号)★
・「リレー討論 住民投票を考える@〜D」(『日本経済新聞』1996年8月25日・9月1日・8日・15日・22日)★
・「住民投票と代議制@〜C」(『朝日新聞』2000年4月18-21日)
・「吉野川住民投票 各地の運動に弾み」(『朝日新聞』2000年1月24日)
・「住民投票を使いこなそう」(『朝日新聞』2000年2月13日)
・今井一『住民投票』(岩波新書,2000年)660円+税☆
〜フリーのジャーナリストによる著作で各地の事例に詳しい。ただし,完全に運動側の視点に立って書かれている。また,書かれた時期が古いので注意すること。この頃は,住民投票の御三家といえば,@原発,A基地,B産業廃棄物処理施設であったが,2001年7月の埼玉県上尾市の住民投票を皮切りに,その後は市町村合併の是非を問うものが多数を占めるようになっている。
・新潟日報報道部『原発を拒んだ町――巻町の民意を問う』(岩波書店,1997年)
〜巻町の後日談。地域の状況がよく描けている。☆の読後の方が理解しやすいだろう。
・『ジュリスト』1103号(1996年12月15日)
〜住民投票についての法律学者の議論については,法律雑誌ジュリストのこの特集号を参考にしてほしい。
7.お薦めのウェッブ・サイト
(a)京都市情報館
〜京都市行政に関する各種情報など。京都市のまちづくりの実践ついては,上の3(c)を参照。
(b)総務省
〜地方財政に関する各種資料(図表データなど)や市町村合併についての情報提供などが詳しい。
(c)ドットジェーピー
〜議員インターンシップなどについての案内。
(d)ニセコ町長 逢坂誠二氏のホームページ
〜ニセコ町はたぶん,いま日本で最も注目されている基礎的自治体。1994年に35歳で初当選し,町民との「情報共有」を推進し,日本で初の「自治基本条例」制定した若き町長のホームページ。
お薦めの記事は,「自治の課題とこれから」,「住民参加の地域戦略」,「自治基本条例に取り組む」など。
(e)(財)自治体国際化協会
〜各国の地方自治の現状に関する調査資料がPDFファイルで掲載されており,便利。
(f)地方六団体地方分権推進本部
〜「資料室」のコーナーは各種資料が掲載されており,たいへん便利。